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オリジナル小説
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 単刀直入に言おう。
 俺は一度、確かに死んだ。

◆◆◆

 事の発端なんてものは所詮些細なものだ。

 俺は今まで十六年間生きてきたが、暗い過去を持つわけでもなく、ましてや他人に誇れるほどの業績を持つ人間ではない。ダメダメな人生真っ盛りな生活を過ごしていた高校二年の夏休み。忘れもしない、というか強烈過ぎて忘れられん。人間って忘れたいことは結構覚えてるんだよな、これが。兎にも角にも、俺にとって忘れられるはずの無い、人生の転機とでも言うべき出来事が唐突に起こったのだ。

 朝、爽やかな太陽の光で目が覚める、なんてことはなく、太陽がようやく真上に差し掛かったころに俺はノソノソと布団から這い出た。時計を見れば電池切れでとまってやがる。ふざけんなよコンチクショー。仕方なしにテレビをつければ時刻は正午七分前。昨日久しぶりにインしたネトゲで一心不乱に金稼ぎをしたせいか、心なし目が疲れている気がする。落ちたのは今日の七時かそこらだったはずなので寝たのは六時間。いつもの三倍も寝ていたようだ。
 特にすることも無い俺は、時計の電池を買うついでに本でも立ち読みすっかなと思い、着替え始める。
 今思えばそう思ったのが運のつきなのかもしれない。頼む、その時の俺。おとなしく二度寝でもしててくれ。

 俺は電池の入った袋を片手に、欠伸を噛み殺しながら道を歩いていた。昼時なだけに車はほとんど通らない。俺はお目当ての古本屋へ向かうべく、十字路を右へ曲がった。
 目の前いっぱいに広がるのはおっきなトラック★
 体中に形容できないほどの衝撃が走ったと同時、俺の意識はあっさりと途絶えた。

◆◆◆

 次に目が覚めたとき、俺は自分の目を疑ったね。何だって金持ちそうな洋館のベッドで寝てんだか。試しに自分の頬を引っ張ってみるが痛い。どうやら夢ではないらしい。はてどうしたものかと俺が頭を回転させるよりも早く、これまた高そうな扉が開いた。部屋に入ってきた人を見て、俺はまた自分の目を疑う羽目になったわけだが。
「あぁ、やっと起きましたか」
 俺はやはり夢でも見てるのか。優しい笑みを浮かべる男の背中には羽。それも天使のような真っ白なものではない。蝙蝠のような黒い羽。柔らかそうな灰色の髪に、灰色の瞳。真っ黒なコートに身を包み、一見人間に見えるが、羽があるせいで人間とは言いがたい。
「どうなさいました? まだお体が優れませんか?」
 男は眉を少しだけ八の字にして俺に近寄る。
「え?いや、その……」
 お体云々の前にここはいったいどこで、お前は誰なのかと問いただしたいところだが、如何せん混乱してる。ただでさえ頭が悪い俺には、冷静になるという選択肢などあってないようなものだ。俺が言いよどんでいると、男は何かに気付いたように微笑んだ。
「はじめまして、私はマモンと申します。何か聞きたいことがあるのでしょう? 遠慮なさらずにどうぞ」
「えっと、じゃぁ……ここは何処、ですか?」
 敬語っていうのはイマイチ良く分からん。普段使うことなんてないからな。何故使ってるかっつーと、無論、ため口なんかきいた日にはこの男に殺されるかもしれん。
「無理に敬語を使わなくても結構ですよ。貴方は我らのご主人様(マスター)なのですから、もっと堂々としてください」
「はい……はい?」
 今この男はなんつった? ご主人様? 誰が?
「ここは貴方が生まれ育った人間界とは違う世界、言うなれば魔界です。そしてここは魔界城と呼ばれる、魔王が住む城です」
 駄目だ。俺の頭が処理落ちしかけてる。いくらなんでもそんな阿呆なことがあってたまるか。
 魔法なるものが外国、特にアメリカやヨーロッパで使われるようになったのはつい最近のことだ。日本で使われたという例は無い。ましてや魔界があるなんて初耳だぞ。
 しかしどうやら、思考とは裏腹に俺の口は冷静らしい。
「何で、俺がここに?」
「それは貴方が魔王になるにふさわしい存在だからです」
 マモンと名乗った男は、コートの内からやたらと装飾のされた見るからに高そうな箱を取り出した。そして恭しく、その箱を俺の目の前へ差し出してきた。
「この箱には特別な魔術がかけられています。魔王になるべき存在にしかこの箱はあけられません。さ、どうぞ」
 ずいっと箱を差し出すということは俺に開けろといっているのだろう。俺は恐る恐る箱を受け取り、蓋に手をかける。見た目より古いのか、少し軋むような音がし、箱はあっさりと開いた。んな阿呆な。マモンが言ったことが事実なら俺が魔王とやらになってしまう。そんな七面倒くさいことやってられるか。
 箱の中を見れば、なにやら赤い宝石があしらわれているアクセサリーが入っていた。ネックレスにブレスレット、ピアスにリング。こんなにあってどうするんだ。
「それは“紅魔石(コウマセキ)”、言うなれば魔王の証です。お好きなものをお一つお付けください」
 アクセサリーはおろか、おしゃれに疎い俺には無理難題だな。しかもどうやら俺が魔王になるのは確定事項らしい。後に引けなくないぞ、この状況。
 俺が悩んでいるのを察してか、マモンが先ほどからまったく変わらない微笑みを浮かべたまま、
「リングやピアスはさほど邪魔になりませんよ?」
などど言うから、俺は仕方なしに一番シンプルなリングを手に取った。とりあえず蓋を閉め、マモンに箱を返す。マモンは箱をコートの内へしまうと、俺をベッドから立たせた。
「さぁ、他の魔界の者たちに新しい魔王様のお姿を知らしめましょう」
 そう言ってマモンはクローゼットから服を取り出し、俺に手渡した。そして部屋の外で待っていますとだけ言い残し、早々に部屋から出て行った。
 はて、これは困った。本格的に俺は魔王になることで決まってしまったらしい。ここまでくると人間界はどうなってるのかだとか、何で俺が魔王に選ばれたのかとか、もはやどうでも良くなってきた。昔から順応性が高いことだけが取り柄なんだ。阿呆らしいほどに夢見たいな現実を、どうせなら謳歌してやろうじゃないか。なぁ?

 

To be continue...

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